音の消える町で – Ellington, CT

学校のホームステイ引率で、
東海岸コネチカット州Woodstockを訪れた。
教員はホテル泊が一般的なのだが
どうしてもホームステイがしたくて、
無理を承知で希望を出してみた。
当然のように、
還暦近い日本人男性を受け入れてくれる
家庭は見つからなかった。

現地に着き、
生徒たちは次々とホストファミリーと対面し、
少し緊張した面持ちのまま、それぞれの家へ向かっていく。
そして、誰もいなくなったホールに、
ひとりの女性が笑顔で残っていた。 

Ivy ― 自分を受け入れてくれた、勇気ある女性だった。

 Ivyの料理は、特別に豪華というわけではない。
朝のトースト、ベーコン、スクランブルエッグ。
誰が作っても同じだと思ってしまいそうなものでも、
手を抜かず、丁寧に作られていて、
不思議と、心に残る味がした。

お返しに、
抹茶のムースケーキ、
バナナタルトを作り、
デザートにと振る舞った。

ある日、
「ハーレーのディーラーに行ってみたい」と話すと、
Ivyは、25マイル離れたEllingtonまで
小雨が降る中、車を出してくれた。 

森と牧草地と畑。
エンジン音さえ、風景に溶け込んでいく。
正直に言えば、
この町の名前を目的地にして旅をする人は、
ほとんどいないだろう。
観光名所もなく、
歴史の教科書に載るような出来事もない。

その日は、雨が雪に変わり始めていた。
時間が止まったようなディーラーに着き、
正直、期待はしていなかった。
こんな場所に、
心を掴まれるTシャツがあるはずがない。
そう思っていた。

ところが、その予想は外れた。

アメリカの牧草地を思わせる風景に、
静かに置かれた TST の文字。
TSTとは、
この地域にある
Thompson Speedway Motorsports Park の略だという。
正式名称は長すぎるため、
Thompson Speedway Track と呼ばれるようになり、
その頭文字がTSTとなったのだそうだ。

このTSTは、
ローカルなレース場でありながら、
NASCAR系ショートトラック文化の
“聖地”として知られているらしい。
そして、森と牧草地に囲まれた静かな町も、
レースの行われる日だけは
エンジン音と歓声に包まれるのだろう。

グッズを買い込んでホクホクの自分
「バイクにまたがったのは久しぶり」
そう言って笑うIvy

雪は、町からすべての音を奪っていた。

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この記事を書いた人

“An English teacher’s insight × Harley and American culture × a life shared around sweets. What I’m doing on this website is not decluttering, but a redesign for the next ten years.”

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